2013年07月31日

大切な家具の修理・マルニ木工の職人さん

「よくぞ捨てずにいてくださいました!」
節くれ立った指で奇麗な木目のダイニング・テーブルを愛しむように撫でながら、
家具メーカー、マルニ木工の紹介で修理の見積もりにやってきた家具職人の
老人が言いました。
「私どもの会社で昭和40年代から造り続けている大切な商品でとても良いものです。
しかも、このように真ん中から別れて延長天板が出せるようになっている
伸長式のテーブルはもう作っていないので貴重ですよ。この一枚板細工の天板だって今じゃ手に入らない。」

それは主人がまだ中学生だった頃に義父が買ってきた食堂の家具でした。
義父は家族をとても大切にした人でした。

だから車一台と同じくらいの大枚を叩いて
その何とも優美な曲線の細い足を持つ楕円形のテーブルと肘掛付きの4脚の椅子を
家族の集まるダイニングに置いたのです。

「ベルサイユ」とフランス王宮の名が
付けられたダイニングセットを自慢していたそうです。

数年前に義父母が相次いで亡くなり使う人の無くなったその「ベルサイユ」を
形見のように思った主人が、我が家のダイニングルームにいただいてきたのでした。

けれども、四十有余年に及ぶ歳月のためなのでしょう。
テーブルは天板と足を繋ぐジョイント部分のネジが弛んで少しの力でグラグラと揺れました。
椅子に張られた革もところどころ破れて中からウレタンと思しきクッション材が飛び出していました。
「手を掛けてやれば新品みたいに蘇りますよ。」
力のこもった言葉に、提示された金額が少々高いなぁ…と感じながらも、
思い切ってオーバーホールをお願いしました。

ひと月ほど経ち「ベルサイユ」は修理を終えて我が家に戻ってきました。
なんと素晴らしい! 
主人も私もだた「わぁ!」と言ったきり言葉を見つけられませんでした。

テーブルも椅子も躯体の木材にはニスが塗りなおされ、ツヤツヤと輝いています。
椅子には焦げ茶とベージュの縦縞に薔薇と蔦が透かし模様で織り込まれたシックな布地が張られ、
とても上品な感じに仕上がっていました。
座面と背もたれのクッション材も新しいもの入れ替えてあり、座り心地の良さに感激しました。

満足そうな私たち夫婦の顔を見て、家具職人さんも満面の笑顔で帰っていきました。

以来「おじいちゃんのベルサイユ」は大活躍
家族の食事のときはもちろん、子供たちはダイニングで勉強するようになりました。
自分の部屋に学習机があるのに、
なぜか大学生になった今でも大事なレポートなどはダイニング・テーブルで書いています。
私は家計簿をつけたり、趣味の針仕事をしたりします。
そんな様子を主人がリビングに置かれたソファーに腰掛けオットマンに
足を投げだして微笑みながら見ています。

すっかりマルニファンになった主人はダイニングチェアーと同じ生地を張ったリビングセットを誂えました。
「これは『アンドリュー』っていうんだよ。この猫が高いところから
飛び降りてトンと足をついたときみたいな足がいいだろう?
『カブリオールレッグ(猫足)』って言うんだ。」
何やら自慢気で嬉しそうです。

天国の義父が「ニヤリ!」と笑ったような気がしました。  


Posted by ナナっこ28 at 22:26家具